血液由来DNAと唾液由来DNAのWGSサンプルの品質評価

巷ではやり始めている遺伝子検査キット。このサービスの大半は唾液を送って解析しますよね。唾液からDNAが取れるのはなぜかというと、白血球が大量に含まれているためだそうです(下記参照)。

遺伝子検査の試料として、なぜ唾液が使えるのか。一般的な試料として血液や、口腔の粘膜、髪の毛などが挙げられますが、試料の条件として体を大きく傷つけることなく、遺伝情報を担うDNAを豊富に含む細胞を採取できるところがポイントになります。 核を持つ白血球を豊富に含む血液は検査の精度を考えると好ましいのですが、注射などで血液を取り出す必要があるため、大量に手軽に採取できません。 この血液と同じくらい検査に向いていると考えられているのが唾液なのです。国際的な遺伝情報の研究でも標準的に使われることが多くなっています。一見透明な唾液ですが、多くの白血球を含んでいます。この白血球の細胞にDNAが含まれていて、遺伝子検査の解析対象になります。流動性があって、液体で均一であるところも試料として好ましいのです。 (引用:https://mycode.jp/howitworks.html

変異検出の観点からみて、血液と唾液の差がどの程度なのか。
今回はそんな論文を要約してみました。

bmcmedgenomics.biomedcentral.com

PS. 最近、論文要約用のフォーマットを色々お試し中です。ちょろちょろ変わるかと思いますが、迷走中なんだな、と温かい目で見守って頂ければと思います。

この論文を読む目的は?

  • WGSにおいて、血液と唾液の品質にはどの程度の差があるのか知る
  • サンプルの品質評価方法について知る

どんな論文か?

厳格な QC 基準を満たす高品質の唾液サンプルは、血液由来の DNA が利用できない場合、または適切でない場合に WGS に適用可能であることを示した。唾液 DNA は、SNV においては血液DNAと大差ない検出が可能だが、CNVの検出量は低くなる。

使用されている技術や手法は?

Illumina HiSeq X(30x, 150bp)

Isaac Alignerを用いてhg19に対してマッピング

Isaac Variant Callerを用いて変異検出(SNV・short INDEL)、Control-FREEC/Canvas を用いて変異検出(CNV)

American College of Medical Genetics and Genomics (ACMG)を用いて病原性をアノテーション

口腔内マイクロバイオームへのマッピングにはHuman Oral Microbiome Database (HOMD) を利用

リサーチギャップは何か?

血液と唾液のWGSサンプルの品質について、比較検証した研究はまだ存在しなかった。
唾液由来 DNA が血液由来 DNA の代替案として機能するか否かについて、唾液由来サンプルの有用性を検証した点が新しい。

どのように検証しているか?

研究で使用した5サンプルのシーケンスカバレッジ(引用:https://bmcmedgenomics.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12920-020-0664-7/tables/2

ヒトリファレンスゲノムおよびヒト口腔マイクロバイオームへのマッピング結果(引用:https://bmcmedgenomics.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12920-020-0664-7

  • アガロースゲル状のバンド、DNA濃度(20 ng/μl)、吸光度比260/280(1.3)を指標としてDNAの品質を検証
    • 46%の唾液由来のサンプル、6%血液由来のサンプルがWGS の品質管理 (QC) 要件に適合しなかった。
  • 血液サンプルと唾液サンプルについて、ヒト以外のリファレンスゲノムにマッピングされるリードの割合を比較
    • 唾液由来のサンプルでは、血液由来のサンプルと比較して口腔内マイクロバイオームの配列が取得される傾向があることを確認
    • 人リファレンスゲノムを用いて非ヒト配列を除去することが可能なことを検証
  • 血液サンプルと唾液サンプルをついて、SNVとCNVの一致率を調査
    • 心血管疾患関連遺伝子コーディング領域及びすべてのコーディング領域内の変異において、唾液由来のサンプルから特定されたSNVの95%以上が血液由来のサンプルで特定されたSNVと一致していた。
    • MAF < 0.01 で定義される希少なSNVについては、血液・唾液間の一致率が90%低下した。CNV は、血液と唾液のサンプル間で 76% しか一致しなかった。

追加の議論は?

  • 唾液は長期保存が可能で、常温で輸送できるため、血液に比べて輸送中のサンプルの保存が容易なため、遠隔の参加者からのサンプル収集において有用
  • 唾液サンプルからの DNA 品質のばらつきが大きいことを考えると、唾液採取のための適切な技術を確保し、DNA 品質に厳格な QC 基準を適用することが重要
  • CNVの検出において、リードデプスが使用されているため、唾液サンプルの CNV 収量が低いのは、唾液サンプルのカバレッジが減少した結果である可能性がある。
  • CNV検出におけるベストプラクティスなパイプラインが欠如していることもこの一因と考えられる。